どうなるシリーズ

どうなるこの国の障害者福祉

どうなるこの国の社会福祉法人


 今、社会福祉法人のあり方をめぐって議論が沸き立っています。※(注)1いくつかの政府の会議においては、社会福祉法人(以下、社福法人)の現状に厳しい批難が集中しています。その上で、これからの社福法人は如何にあるべきか、という「改革案」が論議され、その内容が少しずつ明らかになってきました。近く各会議の意見がとりまとめられ、政府・厚生労働省に答申される予定です。なぜ今社福法人なのか。そして何が問題視され、今後どのように「改革」されようとしているのか。この「改革」はわが国の民間社会福祉にどのような影郷を及ぼすのか、等々疑念が募るばかりです。「改革」のありようによっては、わが国の社会福祉の実施体制や実施方法が大きく変化する可能性もあります。その意味では大変緊迫した事態を迎えつつあると言えなくもありません。私たちは、いわば当事者のひとりです。無関心ではいられません。もちろん限られた情報源です。そのため正確性を欠くかもしれません。さしあたり可能な範囲で検証を加えます。

 

 社福法人の現状に対する批判や指摘はおよそ次のような内容です。―社福法人はその事業の実施に公金(税金)を使い、しかも全て非課税扱いで、その上様々な公的補助金を受けている。にもかかわらず―。

(1)    法人・事業の財務諸表や公からの補助金の使途(使用)について大変閉鎖的。国民への情報開示がきわめて不十分。

(2)    法人によっては「巨額」のくりこし金(内部留保金)を保有。しかしそれらの使用方途が不明確で又無目的。ひたすら累積させている  のみ。

(3)    多くの社福法人は不活発。制度外の事業や地域・住民のニーズに積極的、開拓的に応えようとしない。

(4)    事業の実施に必要な物品などの調達や業者との取り引きなどについて、その利害が不明朗。公正性や妥当性が担保されていない。

(5)    全体的に経営基盤や管理体制が脆弱。法人管理のための理事会や評議員会、役員などの役割や権限、責任の範囲等が不明確。福祉サービスに対する第三者評価受審も低調。

(6)    現在大半の社会福祉事業(主に高齢、保育、障害)に営利法人(株式会社 や有限会社)が参入して社福法人と共存状態。しかも営利法人を経営主体とする事業者の占有率が高くなり多様なニーズに応えている。

 しかし、非課税措置や補助金などの「優遇措置」は社福法人だけが受けている。社福法人はこの「優遇措置」に見合う役割や国家・地域への貢献を果たしていない。等々です。

 

 そして、これらの社福法人の諸課題に対して以下のような「あるべき姿論」が展開されています。

(1)   社福法人の経営、運営の透明化の促進を。財務諸表や補助金の使途などについて公開義務を課すべき。

(2)   社福法人、事業所の経営、運営に関して第三者評価の受審を義務付けるべき。

(3)   くりこし金(内部留保金)の使途、使用を明確にさせるべき。目的性のある積立金、引き当て金等に当るべき。又職員の労働条件の向上に充てるべき。

(4)   くりこし金の有用利用で本来事業に加えて制度にのらない(のれない)地域の困窮者や重度介護者、高齢者などへの法外事業に積極的にとりくみ、切実なニーズに応えるべき。

(5)   (4)のような社会貢献事業のとりくみを義務化すべき。又要した費用の報告も義務付けて不作為に対しては何らかのペナルティーを課してもいいのではないか。

(6)   地域の複数法人が連携してとりくめるよう法人間の資金移動、職員の人事交流などが可能になるように。事業の共同化もすすめるべき。

(7)   法人の体力強化。経営管理体制の強化、職員のキャリアパスの創設のためにも法人の大規模化を目指すべき。法人の合併もすすめるべき。一法人一施設状態からの脱却を。

(8)   優遇措置を受ける社福法人は国家や地域に貢献すべき。

(9)   所轄庁の指導、監督を一層強化すべき。国は経営の悪化した社福法人に対して助言や勧告を行えるようにすべき。

  等々です。

 

 全く指摘の通りだと思います。社福法人が、全額公金を使用し、「本来公の責務」によって直接なされるべき社会福祉を代替的に実施し、そうして国民のいのちや暮らしを守り支えているのであれば、当然社福法人には高い倫理性や透明性、法令の順守等が求められて然るべきです。社福法人はそのために強く自らを律して公明正大な経営、運営に努めなければなりません。現在国や地方自治体の行政が社福法人を管理監督する等、経営、運営に関与、介入し、又一定の制限や制約を加えている事は、むしろそうあるべきです。そうしてこそ公的責務による公的な社会福祉が、社会福祉法人を媒体としつつも、全国どの地域の、どの国民に対しても公正に実施されるものです。その意味では、今日の政府の各会議が発する社福法人への批判や指摘が、仮にわが国の社福法人の現状を言い当てているものであるとすれば、私たちは当然真摯に受け止め襟を正さなければなりません。当法人も含め、ここは大いに自省するべき時です。

 

 とはいえ、次のふたつの「指摘事項」だけはどうしても受け入れることができないのです。それは、批判や指摘の前提である社福法人は「非課税、補助金の『優遇措置』を受けている」という点。そしてもうひとつは、その前提を根拠にした「国家や地域社会に貢献を」という論理です。

 

 ※(注)2そもそも社福法人は第2次世界大戦後、まだ混乱の治まらない時代社会の状況下に制度として創設されました。そして、国は「本来公的責任と義務」によって実施するべき国民の社会福祉を、このあらたな特別な公益法人、社福法人に(を福祉の提供主体とし)委ねることにしたのです。国民の権利とされた社会福祉の実施を、しかし、戦後の厳しい国民生活を目の当たりにして直接国の機関や施設で、そしてすべて公務員が担うことは絶対的に困難で不可能、との国の見解が背景のひとつであったと言われています。その結果、わが国の社会福祉は、公の実施を代行する福祉法人による、いわゆる民間社会福祉が急速に拡大伸張しました。公的責任と権限を背景に、国の財源(税金)を使用する「措置制度」が同時に制度化され定着してゆきました。

 以来、わが国の社会福祉は長い公民の共存時代に入り、近年の制度の大改変を経て今日の圧倒的に民(平成12年以降、社福法人に加えて多様な営利法人も「参入」)に依存する状況にたち至ったのです。

 これまでの70年近い戦後の社会福祉史の中で、わが国の社福法人は何度も長く厳しい「冬の時代―貧しい運営費、厳しい経営、低劣な職員の労働環境等」を強いられ、しかしのりこえてきました。どのような状況にあってもなお支援の必要な人たちに寄り添い、高い志や使命感を支えにひたすら耐えつづけてきました。そのようにして事業の継続継承に尽力しつづけてきたのです。制度の外におかれていた福祉課題、生活課題に対しても果敢にとりくんでもきました。その結果制度化に至ったケースは枚挙にいとまがありません。

 

 「本来国がなすべき」ことを自らはそれを行わず、民に委ねる形のわが国の社会福祉のありようです。公金(税金)の投入は当然であるとともに民が実施する社会福祉「事業」を非課税とすることも又あたりまえな姿です。事業の円滑な運営のための補助金支出もその是否については論外です。

 つまり指摘されるこれらの社福法人への「優遇措置」は決して特別な扱いではないのです。国民の権利である社会福祉に対する国の義務であり同時にそれを代行する社福法人の権利―つまりは国民の権利、という関係性で解されるべきなのです。「優遇」という見方、評価は、おそらくは社福法人以外の実施主体(営利法人)への国の「差別的とり扱い」の結果です。

 国自身が社会福祉の実施主体に関する規制をゆるめ、基盤整備のために営利法人の参入を促しながらも本来実行するべき※(注3)「参入営利法人への義務」を履行しないためだと言うほかありません。社会福祉に市場原理的競争原理を導入しようとする国のいき方にこそ批判や指摘がむけられるべきではないでしょうか。

 「制度外のニーズへの対応」やそれによる「国家や地域への貢献を」という指摘についても同様です。社福法人は本来の事業の着実な実施にこそ注力するべきで、現に今日どの法人も精励しています。もちろん潜顕様々な国民、地域の福祉課題や生活課題に無関心でよいはずはありません。法人としてできることは前むきにとりくむべきでしょう。とはいえ、それらへの対応を社福法人に「強いる」やりようは本末転倒です。多くの場合、国民に現出する福祉課題や生活課題は時々の政治や経済、さらには社会状況の所産です。又国や地方自治体の政策的、制度的無作為や欠陥の反映でさえあります。その意味では第一義的な対応の責任は国や地方自治体自身が負うべきです。行政の大きな政策的課題だと言うべきでしょう。

 数々の社会的問題やニーズへの対応も社福法人の使命、と義務づけて「くりこし金」を使用させて「よし」、とできるような次元のテーマでも方法論ですむものでもありません。

 社福法人の「巨額」の「くりこし金」が問題であるのなら、それこそ行政の権限である管理監督の強化や法的規制等を通じて適正な予算の執行、くりこし金の意味ある使用に導くべきです。「くりこし金」は社福法人の本来事業にこそ有意義に使用されるべきものです。そして、この方途こそが国民の社会福祉の向上につながる当面の確かな道であるとも考えるのです。

 

 はたして、政府の各会議は最終的にどのような結論を答申するのでしょうか。間もなくその全容が明らかにされる予定です。又、政府はそれらを受けて「改革」をどのように具体化、法制化するつもりでしょう(来年の通常国会に提案される見込み、とされています)。「新型法人」※(注4)構想なるものがこれから議論の俎上にのせられるとの報道にも接しました。

 事態は私たちの想いや訴えとは全く異なる次元でどんどん進行しているようです。まずは動向の一層の注目と分析、そして、当法人としては今後どのような事態にむきあうことになっても確実に対応しうる体力や体制の確保をめざしての運営に努めてゆきたいと思っています。

 今、わが国の民間社会福祉はあきらかに大きな岐路にさしかかりつつあると言えましょう。

 

【文責 吉川】


 

 

 

※(注1)「規制改革会議」、「税と社会保障の一体改革国民会議」、「社会福祉法人のあり方に関する検討会」、「医療法人の事業展開等に関する検討会」。

 

※(注2)「昭和26年、社会福祉事業法」。憲法第89条の「公私分離の原則」をこえて民間への公金の支出を可能にできるような特別な公益法人、社会福祉法人を制度化。

 

※(注3)営利法人(株式会社や有限会社)や特定非営利活動法人(NPO)、その他社福法人以外の公益法人などに委ねる場合にこそ「事業」の性質にかんがみて社福法人同様の、それこそ「特別な措置」を国の義務として講じることが必要ではないか。

 

※(注4)福祉新聞(平成26年4月14日発行)

         「(仮称)非営利ホールディング型法人」

 
 

 

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