研修報告

2019年度研究報告「堺みなみの転倒事案から支援のあり方について考える」

堺みなみの転倒事案から支援のあり方について考える

堺みなみ 濱田勇気 惣慶香子

堺みなみでは、年々転倒件数が増えている傾向にある。転倒を防ぎ安全に過ごしていただくためにどのような支援を行っていけば良いのか、それを考えていくための手立てとして今年度転倒についての研究を行うことにした。
転倒が起こった要因をデータ化し、その傾向をデータに基づいて分析、対策について検討を行った。堺みなみも高齢化が進み、筋力や判断力の低下による転倒が増えている可能性が考えられる。堺みなみで安全に過ごしていただけるよう、転倒を減らす支援について考えていきたい。
毎月、その間の1ヶ月間に起った転倒事案について、1件1件検討を行った。
具体的には、転倒した利用者について、年齢、性別、障害支援区分、薬の服薬状況、付き添い介助の有無について確認を行った。そして、転倒した要因について詳しく解析を行い、対策を検討した。

年齢ごとの転倒人数(図1)からの考察

年齢ごとの転倒人数を見ると、34歳以下は転倒に関する人数が転倒事故、ヒヤリハットともにゼロだった。また、35~39才でヒヤリハットが1件あったが、転倒事故に関して39才以下はゼロだった。転倒人数の分布が一番多い年齢層は60才~64才で、5人となった。この結果から、年齢が高くなるほど転倒のリスクが高くなると考えられる。今年度は40才以上から転倒事故が起こってきており、堺みなみの平均年齢が全体で46.2才、全利用者に対して40才以上が75.3%、50才以上は46.6%という割合を考えると、もともと転倒が起こりやすい年齢層が多いということが見えてくる。また、年々年齢は上がっていくので、それに伴って転倒のリスクも上がっていくといえるだろう。

(図1)年齢ごとの転倒人数の分布

20才未満 20~ 25~ 30~ 35~ 40~ 45~ 50~ 55~ 60~ 65才 合計
24才 29才 34才 39才 44才 49才 54才 59才 64才 以上
0 0 0 0 (1) 1 1 1 3 1 0 7(1)
0 0 0 0 0 0 (1) 0 0 4 0 4(1)
合計 0 0 0 0 (1) 1 1(1) 1 3 5 0 11(2)

※( )は、転倒に関するヒヤリハットの人数

月ごとの転倒回数(図2)からの考察

月ごとの転倒回数については、今年度のデータではきっきりと見えてきたことはなかった。
今年度のデータし かなく年数を重ねデータを増やしていくことで見えてくる月ごとの要因があるかもしれない。
今年度はイベントや外出のレクリエーションでの転倒事案はなかった。このことから日々の動きの中で転倒事案が起きている可能性が高いと考えられる。

イベントやレクリエーションが先に控えているから気持ちがそちらに向いてしまい、普段は意識できていることが難しくなり転倒に繋がっている可能性も要因の一つかもしれない。
その他、要因として考えられるのは職員がなんらかの理由で少なくなっていることから見る目が少なくなり、事前に防げていた転倒が防げていないケースである。

利用者別の転倒回数(図3)からの考察

この図から考えられることは利用者の中でも転倒のリスクが高い方と低い方がおられるということだ。毎年データを取ることで利用者ごとのより詳細な傾向を考察できると考える。また、○○さんは転倒しやすいという職員の意識が高まることで目配り気配りが広くなり転倒に繋がる事案の早期発見や予防に繋がる。その意識が施設全体で徹底されていれば転倒事案が減少する可能性は高い。

今年度、転倒事案がない方々ももちろん転倒のリスクはあるが、データがないので対策を立てることが難しい。普段の動きや障害特性、人間性からインフォーマルな評価を重ね予想することが重要になる。
 転倒を予防することに重きを置き過ぎると、利用者の生活の幅や選択肢の幅を減らしてしまうことになり兼ねないので、利用者がどんな人なのか?何を望んでいるのか?何がしたいのか?ということを考えることを念頭に置きたい。

場所別の転倒回数(図4)からの考察

転倒事案回数が多い場所は食堂、食堂前と利用者が集まって利用者の動きが多いところである。また、班ごとを見ると利用者の動きが多いD班の転倒事案が多いことがわかる。
その他、考えられることは女子トイレや車内等の空間が狭い場所が転倒事案の起こりやすい場所かもしれない。身動きの取り辛さや狭さへの意識を向けにくいことが転倒の要因になっていることも考えられる。1F廊下、A班、B班は作業部材が多く、物が多いことも要因として考えられる。

行きなれない場所での転倒は慣れていないからということも考えられる。今年度はそういった事案はない為、堺みなみの利用者は初めて行く場所等は注意しやすいのか、職員の注意喚起や目配り気配りから転倒事案に繋がっていないとも考えられる。
 今年度C班内では転倒がなかった。C班は堺みなみにある4つの班の中で1番利用者数が少なく、また班の中にも物が少ないため広々としている。利用者の動線を考え物の配置を行っており、そのことも転倒対策になっていると考えられる。

時間別の転倒回数(図5)からの考察

11:30から13:00の昼食の時間帯に転倒事案が集中している。堺みなみではこの時間帯に食堂に利用者が集まること、入室、退室、手洗い、下膳等で人の動きがもっとも多い場面であるので転倒リスクが高いと考えられる。
 10:00から11:30と13:00から15:00の時間帯は主に作業の時間となっている。作業の時間から考えられることは資材の持ち運び等で注意が手元に集中して周りの状況が見えておらず、転倒に繋がると考えられる。14:00に堺みなみの取り組みとして腰痛予防の体操を行っていることとその前後にお茶休憩の時間を取る為の準備があり、利用者の動きがあり、午後の時間帯の方が午前より転倒が多いと考えられる。


全体の転倒件数とそのうち物を持っていた場合の転倒件数の割合(図6)からの考察

全体の転倒件数のうち、物を持っていた場合の転倒件数は、全体の4分の1以上と高い割合となっている。物を持ちながら移動する場合、移動することと物を持つことの2つの動作に注意を向ける必要があり、移動するだけの場合と比べると移動することへの意識が薄くなっていることが考えられる。そのため、物を持っている場合は転倒リスクが高くなると言えるだろう。また、物を持っている場合だけではなく、何かをしながら移動している場合も、移動す
ること以外にも注意を向けているので転倒リスクが高くなっていることが考えられる。例えば、話しをしながら移動している、何か目的に向かって(お茶・作業部材等)移動している場合などは、足元への注意が散漫になり転倒リスクが高くなると言えるだろう。
今年度、転倒の研究に取り組むなかで、去年度の転倒事案の振り返りも行った。行事・イベントのときなどいつもと違う予定がある時に転倒が起こっていたことがあり、今年度はイベント前に支援員に対して事前に注意喚起を行った。どういう場面、どういった状況で転倒が起こっていたのか、詳しく職員会議等で共有を行った。その結果、今年度は運動会とスポーツ大会では転倒がなかった。(去年度は運動会で転倒1件、スポーツ大会で転倒1件)今年度のデータしかなく、注意喚起を行ったことが転倒件数ゼロにつながったのか、明確なことはわからないが、効果はあった可能性がある。職員一人ひとりが、転倒しやすい状況、環境について理解しておくことで、事前の対策
(注意喚起などの声かけ、必要に応じての付き添い、整理整頓等)を行なえる場面が増え、転倒のリスクを減らし、転倒件数が減る結果となった可能性が考えられる。
日々支援を行う中で転倒のリスクは常にある。その中でも特に転倒のリスクの高い状況について各支援員が理解し意識していくことで、転倒のリスクは下がっていくと考えられる。そのためにも、こういう状況は転倒のリスクが高いということを以下に示していきたい。
・利用者が物を持っている時・物が多い場所・食堂など人が多い場所・昼休み等人の動きが多い時間帯
・車の乗り込み時
こういった状況の時は、特に安全に意識して支援を行っていきたい。また、物が多い場所は転倒リスクが高い為、日ごろから整理整頓を行い、物を少なくする工夫を行っていくことも大切であると考えられる。職員一人ひとりの意識の向上がリスクマネジメントに繋がっていく。
転倒対策について、個別性が求められるということについても考えていきたい。利用者の障がい特性やその人自身の性質によって、有効な対策は変わってくるだろう。付き添い介助について、利用者によっては付き添われる事に対して、拒否的な反応を示される方もいる。そういった方に対して無理に付き添い介助を行おうとすると、利用者の動きを制限してしまう事にも繋がりかねない。また、支援者との関係が悪化することも考えられる。転倒を減らすことも大切であるが、一方で転倒を減らすということにばかり注目した支援は、果たして利用者にとって真に求めている支援なのかということも併せて考えていく必要があると感じた。例えば、年齢を重ねたことによる筋力低下で転倒回数が増えてきた利用者に対し、転倒回数を減らすという視点で考えると、移動時車いすを利用すれば転倒回数は減るだろう。しかし、利用者本位という視点で考えてみると、運動の機会を増やし筋力向上に努める、移動時に支援員が付き添いを行う等、さまざまな対策が考えられる。車いすに乗ることで歩く機会が減り、筋力低下が急激に進み、歩くことが難しくなる可能性もある。なんでも介助することで、かえって利用者の能力を奪ってしまうこともあるということを意識したうえで、利用者にとってどのような対策が良いのか、利用者、ご家族、支援員で話し合いをしながら検討し、検証を重ねながら実施していくことが望まれる。できることを自分で行うことが、その人らしく生きるということにつながっていく、そのことを大切に考えながら日々の支援に取り組んでいきたい。
もちろん、転倒はあるよりない方が良いのは明らかである。しかし、安易にリスクを排除し転倒が減ればそれで良かった、とすぐに結論付けるのでは利用者の求める支援とは違っていく可能性がある。できることを自分で行いながら、その人らしく生きるということができるように、そのことを大切に考えながら日々の支援に取り組んでいきたい。
私たち自身、今年度転倒についての研究の業務分担になったからこそ、転倒に繋がるかもしれないリスクに対して今まで以上にアンテナを張るようになった。今後も引き続き転倒についての研究を続けていくことで、データが集まりより詳しいことが見えてくる可能性がある。転倒について各支援員がそれぞれの立場で「検討」することが、考える機会をつくり、普段の支援を振り返りながら転倒について考える良い機会になるだろう。そして、そういった繰り返しが、支援の質の向上につながっていくと考えられる。

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